石田 ところで、新川さんのところは、教育ってどうしているんですか?OJTとか。
新川 相変わらずロールプレイイング中心だよ。俺もできるだけ、席をはずさないようにしている。出張とかない限り、毎週火曜日にやってる。
石田 いまでも参加しているんですね?好きだな〜(笑)
新川 いやいや(笑)、主導は任せているけれど、一番うるさい客として参加しているのよ。
石田 僕のところはね、月末にポジション争奪の試験を実施してるんです。筆記と実技の試験。
新川 いいねぇ〜!それ!筆記はどんなことやるの?
石田 例えば、「このメニューにはどういう素材が使われていますか?」とか、チーズやワインなどの知識に関する設問とか。うちのホールにはいくつかポジションがあって、それぞれランクをつけていて、“殿堂入り”しているウェーター以外は全員参加してもらって、試験結果によって毎月ポジションが変わるシステムなんです。
新川 もしかして、それは給料にも反映してるの?
石田 それはまだ。あくまでも勉強してもらうための手段。「勉強してこい」って言っても、してこない人が多いので。給料と連動させることも検討していますけれどね。
新川 じゃもう、あくまでもプライドの戦いってやつだ。面白そう。
石田 そうです。下剋上の世界ですよ。
新川 なるほど。下剋上が大事だよな、やっぱ組織には。
石田 経営者がみんなのことを常に評価してくのは大変な作業じゃないですか。だから毎月、みんなが納得のいくやり方で評価できる仕組みを作ったってわけ。
新川 そういう意味では、“数字がすべて”っていう数字追求型の経営は、実はすごく楽なんだよね。細かいことはあまり考えなくてもいいしね。
石田 経営幹部は“数字がすべて”じゃないと進んでいけない。でも現場は、数字だけを追っていてはだめ。
新川 そう。現場の一つ一つの積み重ねが、最終的に数字に反映されていくんだということを、現場の人間がきちんと理解してくれれば、筋は通るんだろうけどね。なかなか難しい。
石田 そう考えるとね、GD社の長谷川社長ってすごいなって、改めて思うんですよ。あの“数字がすべて”のシステムは、やっぱり人を走らせてしまう。現に、僕は走り続けてきたし。
新川 俺も。
石田 あのシステムが自分のプライドを奮い立たせたし、やっぱり成長もさせてくれた。ただ、それを使う人を間違えると、システムが人材をつぶしちゃう危険性もある。
新川 そういうこと!
僕は、毎月数字で評価するってことを控えている。アルバイトの時給アップも二ヶ月に1回。というのも、毎月数値評価すると、現場も数字だけを考えるようになるでしょ? でもサービスって、もっとファジーなものだと思うのね。もっと感情的なもの。毎月数字だけ考えている人が現場に多くなると、店の雰囲気がおかしくなっちゃうな、って思ってね。それで二ヶ月に一回、将来的には三ヶ月に一回にしようと思っているわけ。ちなみに社員の評価は1年に一回だけ。
石田 うちは(社員の評価は)半年に一回ですね。うちの場合ほとんどが社員ですからね。半年に一回、一対一で全員と話をし、給料は1年に一回更新している。
新川 ところで、キッチンの方はどうやって評価してるの?
石田 調理長がまず評価して、さらに僕と相談して、給料を決めています。料理スタッフも全員が社員ですからね。
新川 全員かぁ。そりゃ、すげぇなぁ〜。
石田 僕の場合は、社員比率を高めて、まず文化を作りたいんです。そういう風土ができあがってきたら、次にも進めるかなって考えているんです。まだまだですけどね。
新川 なるほどね。そんなに慎重に1店舗に入れ込んで、それでも「まだまだ」なんて。志の高さは、すごいよね。
石田 まだまだこの店は“伸びしろ”があるんです。それを伸ばさないで、なんで他の店に行けるの?って僕は考えちゃう。まだこの店の7割ぐらいしか出しきっていないと思っていますからね。
新川 確かに店って、「成熟してナンボ?」ってところ、ある。成熟しきったと思ったら、実はぜんぜん成熟しきってないこともあるしね。
人が辞めない会社にしたい。そのために環境を作らなければならない。それを俺たちはそれぞれのやり方で実現させている、って感じだね。お互いGD社を卒業し、自分の信じる道を進んでいる。そしてお互いを認めながら、お互い譲れない部分がある(笑)。
石田 そうですね(笑)。いろんなフィロソフィーがあることで、最終的に業界自体がよくなっていけばいいと思うんですよ。GD社は、それまでの飲食業界のステイタスを上げましたからね。
新川 業界では、ホテルから街場の店に“下りる”って言い方するけれど、俺はそういうのを変えていきたい。街場に新しい土壌を作っていきたいね。アメリカには、外食産業をエンターテインメントとする捉え方がマーケットとしてあるから、社会でも認知されるし、ステージもそれなりに上がる。日本ではやはり水商売として考えられてしまうでしょ。社会でしっかりとした産業として成り立っているかというと、そこは弱い。だから働く側の人間がそういう意識を高めていかないと、産業として、事業として成り立っていかないから、彼らが長く安心して、働ける環境をつくらなくてはならないね。